全文で36000字超えでした(遠い目)
なので2つに分けたいと思います。
- 【邯鄲の幻像】
- 【礼拝日】
- 【情報共有】
- 【敵と仲間】
- 【仲間と敵】
- 【秘密兵器】
- 【躊躇】
- 【自主権】
- 【交渉要請】
- 【思惑】
- 【選ばれた道】
- 【真意?】
- 【枢機卿と騎士】
- 【初戦】
- 【一時の勝利?】
【邯鄲の幻像】
これは夢・・・なのか
ジャン・バール「ヴィシア聖座旗艦ジャン・バールが全艦に告ぐ!」
ジャン・バール「ここは落ちた!異教徒たちが祖国に侵入してくるだろう。鉄血や帝国の連中だけがオレたちを陥れようとしているのではなく、本部までもが我々ヴィシア聖座を壊そうとしている!」
ジャン・バール「そもそも、クビール港でのこともそうだ。ダンケルクたちが敵対していないにも関わらず、アズールレーンから攻撃された時点で、既に答えは見えていた!」
ジャン・バール「そんな偽善者どろに、オレたちは絶対に従わない!」
ジャン・バール「ヴィシア聖座は今存亡の危機に蝶面している。我々の周りは敵だらけだ。だからどうした!」
ジャン・バール「命令を下す!全艦、直ちに自沈せよ!」
オレは負けた。そしてヴィシアのプライドの為に、仲間たちに自沈を命令した。あのとき、戦艦ジャン・バールはたしかにトゥーロンで沈んだーそのはずだった。
しかし、違和感を覚える。無に帰ったはずの意識がまだこうして「存在」し続けている。ならばここは天国、はたまた地獄なのだろうかというよ、それもまた違う。艦船である自分だと、ほかの場所に辿り着くかもしれないが・・・
少なくとも、この無限に広がる真っ暗な空間はアイリスにあるどの文献にもない
ジャン・バール「ー定めあるものには死がある。汝悲しむことなかれ。これぞ嘘偽りない輪廻の摂理。いつかは、違う自分に目覚めるだろう。」
ジャン・バール「それでも、神には感謝したいと思う。素晴らしい国をくれてありがとう・・・と。この命を幸せにしてくれてありがとう。そして天国の海に迎えてくれてありがとう。この栄光がすべてのアイリスを継ぐ者に伝わることを願おう。」
暗い虚無の中で、意識だけがはっきりとしている。・・・奇妙なこと喋ろうと思えば、声も響くようだ。とはいえ、いくら艦船だろうと定命ある存在と大差ない事実を受け入れるしかない。
ヴィシア、アイリス、そしてリシュリュー姉さん・・・今となっては果てしなく遠くにいる、大切な存在たちを思い浮かべる。
もう二度と、みんなと出会うことはー
???「バイタル状況問題なし、daccord.そのうち視覚と五感が回復すると思いますわ」
・・・その声・・・お前は・・・
???「私が誰だろうとどうでもいいことですよ。重要なのはあなた、ジャン・バールですわ」
オレのほうが・・・重要・・・・?
???「ええ、どうやらまだ意識が朦朧としていますね。状況を整理してあげましょうか? さて、あなたが最後にいた場所を思い出してみて?」
トゥーロン・・・ああ、オレはそこで自沈したはずだ
???「そうです。鉄血にもロイヤルにも屈することなく、あくまでヴィシアの自主性を重んじたために、あなたは艦隊に自沈を命じましたね」
ああ、よくわかってるな
???「そしてヴィシアの上層部は変わらず鉄血に執心し、アイリスもロイヤルーもといアズールレーン側にいるまま。あなたの自沈は勇敢であり。滑稽であり、悲劇でありーー と、構成の人々は様々な評価をするでしょう」
???「そこはあなたも知っているでしょう。カンレキ・・・あるいはそうなると分かっていることでも、あなたは同じ選択をしたはずー 戦艦ジャン・バールのフネとしての人生はトゥーロンで幕を閉じました。しかし彼女はまだ新しい人生の一歩を踏み出せずにいる・・・」
・・・・・・・・ふざけすぎだぞ、テリブル。思い出した。オレはあのとき自沈しようとしていたが、救助されたんだ。今はこうして回復を待ちながら、お前のくだらないお喋りにつきあわされている・・・だな
???「状況を分かっているようで大変喜ばしいことです。ジャン・バールさん?私も同じ境遇でしたけど、こうして一足早く回復し、ジャン・バールさんの看病をアルジュリーから命じられていました。申し訳ございません。いつもの癖でついからかっちゃって」
構わない、オレもこうしてーー
???「「して、貴方の人生はまだ続くのでしょうか?」」
・・・どういう意味だ?
???「なんでもありませんよ。ジャン・バールさん。貴女はここでずっと縛られるような人でもありませんから。さて、「眠り姫様」の回復も確認しましたし、私も報告に戻らないと。じゃあねジャン・バールさん、貴女にもアイリスの素晴らしき空想を
【礼拝日】
天を仰ぎ、よく見よ。頭上高くいく雲を眺めよ
あなたが過ちを犯したとしても、神にとってどれほどのことだろうか
繰り返し背いたとしても、神のとってそれが何であろう
あなたが正しくあっても、それで神に何かを与えることになり
神があなたの手から何かを受け取ることになるだろうか
神穹を仰ぐ、そして己の小ささを見つめる
ああ、私たちはどれだけ罪深き存在なのだろうか ー
セイレーンの紛争とは無縁と思われる南の大陸、その周辺の海域の一つ。人類の開拓に合わせて、文明もこの地に伝わっているものの、海権国立から遠く離れていたために大きな戦いが起きたことはなく、その航路は細々と続いている。
平和なこの海はまだ知らない。闇に潜む暗流、そして来たるべき戦いを・・・
海を駆け、大陸のとある離島の方向へと航行している艦隊がいた。
モザンピーク海峡
フォーチュン「ぜ、前方にセイレーン艦隊・・・!1,2,3、・・・多数です!」
ジャンヌ「海峡に入ったばかりだというのに、もう集まってきたしたね。昔はこんなにいなかったはず・・・」
リシュリュー「ヴィシア聖座の勢力下に収められていたわけですから、セイレーンの干渉も想像できるでしょう。」
イラストリアス「カタパルト作戦の時といい、ヴィシアの勢力下にどうしてセイレーンが・・・」
ベアルン「あのときは確か、ダンケルクが「鉄血の差し金」のような口ぶりをしていましたな」
イラストリアス「あっ、ごめんなさい。私・・・」
リシュリュー「謝ることはありませんわ。あのときロイヤルのやり方を不満に思ったのは仕方のないことですが・・・元を言えば鉄血がアイリスの本国を手中にしたのがすべての原因です。お互いの本部が作戦を下した以上、私たちもその結果を受け入れるべきです。今度は私たちアイリスで、ヴィシアを説得してみせます。」
イラストリアス「リシュリューさな、あなたがこの作戦に参加したのはやはり・・・」
リシュリュー「ええ、偽善者だと罵られていようと、私は心を証明しなければなりません。神にも、そしてヴィシアにも。同じ古きアイリスを受け継いだ者同士、相争う必要などありません」
そう言いながら、リシュリューは少し苦笑した
【情報共有】
イラストリアス「そう言えばまだ確認していませんでしたが、どうしてアイリスはここを作戦目標にしたのか、理由をまだ教えていただいていませんね。ヴィシアの駐留部隊、そして鉄血の量産型。果てはセイレーンまで存在しているとは言え。ヴィシアの本拠でもなく、戦術的な価値がある場所でもないこの場所をなぜ選んだのでしょうか? 」
イラストリアス「リシュリューさま、失礼を承知でお伺いしますが。もしかしたら宗教的な価値があるのでしょうか?」
リシュリュー「イラストリアスさんはこの世界のアイリスの歴史をご存知でしょうか?」
イラストリアス「少しは聞いていますが、あくまでほんの少しだけです」
リシュリュー「そうですね、では情報共有をいたしましょう。ヴィシアとの和解。それは言うまでもなく、アイリスの至上目標であり、ロイヤルの方々にもそれは説明していたはずです。そして今回の作戦の目標は、我がアイリスの正統性の証明である「聖堂」の確保にあります。」
リシュリュー「正確に申し上げますと、アイリスの正統性を象徴するとある場所の調査・・・できればアイリス勢力のみでの確保、というのが目的となります。本当はヴィシアと目的は同じはずですが・・・」
イラストリアス「鉄血もこの海域にいることが確認されていたから、ヴィシアの真意を問いたい、というのも目的の一つですね?」
リシュリュー「はい、この聖堂はあくまでのアイリスのものです。本当はロイヤルの手をお借りすることなく済ませるべきでしたが、向こうには鉄血がついています。聖堂を確保するにしても、必要な戦力はアイリスの身では賄えないのが現実です。ですからー」
イラストリアス「陛下を説得して、連合艦隊を編成してここにやってきた、というわけですね。」
リシュリュー「ええ、そうです。出発時にお伝えしておらず申し訳ありません。アイリスとヴィシアのため、今一度お力をお貸しください。」
【敵と仲間】
モザンピーク海峡・セイレーン膠着海域
ジャンヌ「イラストリアスさんにあの話を教えなかったのですか?」
リシュリュー「はい、今は隠したままにしたほうが得策かと。その情報を開示しましたら、ロイヤルの方も損得勘定を考え始めてしまいます。」
ジャンヌ「そうですか・・・リシュリューさんの判断には従いますが。ですが私もこれでロイヤルに教えられなくなりましたね。まさかこんなことになるなんて・・・ああジャンヌ、あなたはなんて罪深い子でしょうか。秘密を知らないとはいえ,、大いなる父の教えに背いて、仲間に隠し事をするなんて・・・」
リシュリュー「(そ、そういえばジャンヌも知らないのでしたね・・・) あの聖堂はアイリスにとって光輝く未来の象徴でした。そしてヴィシアと鉄血の手に落ちた今、その隠された影のような一面も暴かれようとしています。そのようなことは決して起こってはなりません。アイリスとヴィシアだけでなく、ロイヤルと鉄血のためにも、です。ジャンヌ、貴女にまで隠し事をさせてしまった私をどうか許してください。」
ジャンヌ「大丈夫です、リシュリューさん。あなたの行いは正しいと信じております。」
リシュリュー「願わくば、今回の作戦ではヴィシアと戦うことなく、平和的に解決したいものですね。同胞に剣を抜きたくないのもそうですが、なによりこの件に関しては、あの子たちにはなんの罪もありません。」
ジャンヌ「鉄血と組んだヴィシア、道が間違っていれば、その道を正せばいいと仰るのですね。私も同感です。平和的に解決が出来ることが一番です。ですが、アルジュリーさんならともかく、あのラ・ガリソニエールは・・・」
リシュリュー「その時はジャンヌ、聖堂の奪還を優先しましょう。ヴィシアの子たちを武装加除して、時間をかけて説得するしかありません。難しいですが」
ジャンヌ「難しいですが、アイリスの導きを信じてやり遂げなければならない。そういうことですね?」
リシュリュー「ええ、頼みます」
【仲間と敵】
モザンピーク海峡・セイレーン膠着海域
ル・テメレール「ビーちゃん、敵のセイレーンが大量に現れたよ!」
ルビニャート「私たちが聖堂に接近するのを阻止するつもりですね」
ル・テメレール「じゃあ先にセイレーンを倒せば、ヴィシアのみんなに会えるのね!」
ルビニャート「ルーちゃん、今は敵同士、のはずなんですけど・・・」
ル・テメレール「そういう感じなのかな・・・?ヴォークちゃんたちとは最近も結構連絡してるよ?礼拝の話とか、ピクニックの話とか、それと・・・」
ルビニャート「ルーちゃんは気楽ですね・・・一応アイリスとヴィシアは戦争状態よ。もし、戦場で出会ったら・・・」
ル・テメレール「ビーちゃん、もしかして・・・」
ルビニャート「撃てませんよ・・・!でも今は作戦行動中だから、そういうのはやっぱり一旦忘れたほうがいいよ。ロイヤルの子に聞こえて変な詮索をされたら、リシュリューさんに迷惑をかけちゃいますから」
ル・テメレール「そうだよね、ロイヤルの子は・・・・仲間だけど。やっぱりちょっと、ん・・・・」
ルビニャート「ダンケルクさんとジャン・バールさんの件がありましたし、どうしてもお互い気を使っているところがあるから・・・そう簡単に「はい仲直り」と、できないのですよ」
ル・テメレール「今は目の前の敵を ー セイレーンを倒すのが先だね!」
ルビニャート「うん、セイレーンを倒すのが先ですよ。行こう、ルーちゃん!」
【秘密兵器】
聖堂の島
アイリスとロイヤルの連合艦隊がセイレーンと戦いを繰り広げている、その最中ー
ヴォークラン「アイリスとロイヤルの連合艦隊、聖堂外周海域に侵入し、セイレーンと交戦を開始!」
ラ・ガリソ「もう入ってきたの!?えへへ、これは結構楽しめそうだね!」
アルジュリー「枢機卿が腰を上げて動いてくださっているわけだから、みんな頑張っているに違いないわ・・・それにしても、この「聖堂」を狙うだけの為にかなりの手勢を連れてきたようね」
ラ・ガリソ「「聖堂」を失うと楽しくなくなるからかも?」
ヴォークラン「そうか、ここにアイリスの笑いの種が保存されているかー。いや、ないね。うん。・・・やっぱりわからない。なんでエウロパ大陸の場所でなく、わざわざ遠路はるばるここまで来たの?ここの「聖堂」って、たしかにアイリスにとって大事だけど、奪うとか、ちょっと考えられないよね」
ラ・ガリソ「上層部は一体何を考えているんだろうねー。アルジュリー、この「聖堂」を守るという指示、変なとこある?」
アルジュリー「ないわ。ただこの命令自体がちょっと不可解ね・・・・「あらゆる方法を使ってでも聖堂を死守せよ」と」
ラ・ガリソ「やっぱりアルジュリーもわからないかー。実はあたしちょっと調べておいたんだ」
アルジュリー「あら、そう」
ヴォークラン「興味あり!」
ラ・ガリソ「別に何も分からなかったわよ。「アッチ」の仕事の友達に聞いても、な~んにも」
ヴォークラン「え~」
ラ・ガリソ「まあもしかしたら単に昔落とした財布を取り戻そうってだけかも?アルジュリー、どう迎撃する?」
ヴォークラン「あのままセイレーンに撃退されればいいのにな~」
ラ・ガリソ「無理無理。あんなやつ、あたし一人でも楽勝だもん。枢機卿の連合艦隊を止めれるわけがないよ。せいぜい時間稼ぎだけでもしてくれれば上出来ってところかな?聖堂にどうやって近づけさせないか悩んだけど、結局これが一番楽だね」
アルジュリー「鉄血の量産型セイレーン、完全制御できないとはいえ、ねえ・・・・」
ラ・ガリソ「あたしには関係ないことね。まあ、たしかに好奇心が湧くかもね。聖座と鉄血の上層部は今何してるのかーって」
ヴィシア所属の艦船、ラ・ガリソニエールが視線を遠方のある「ヒト」に移した。
ラ・ガリソ「今回の作戦の為に配置された、聖座の秘密兵器・・・あそこにいるのがその子かね・・・な?リシュリュー級の四番艦とか、聞いたことないよ。ここに来てからずっとちっとも動いていないね~アルジュリーの命令は聞くけど、反応が薄いというか、よくわからないというか・・・あの子って、本当に味方で合ってるんだよね・・・?」
アルジュリー「こっちは量産型も使い潰せられない状況だから贅沢言わないの。はい、説明するから集まってー」
【躊躇】
聖堂の島
ヴォークラン「な、なるほど。これがアルジュリーさんの作戦・・!確かにロイヤルはともかく、アイリスとの戦いをできるだけ避けたいのはわかるけど・・・このまま艦隊を島の埠頭に引っ込めてっていくらなんでもね・・・」
アルジュリー「じゃあヴォークランちゃんの「撃って出て、華麗なる槍捌きで敵をすべて」のが作戦とでも?ロイヤルは間違いなく撃ってくるはずよ」
ヴォークラン「だからそれは冗談だって・・・なんというか、このまま降参するのは、なんだかね・・・ロイヤルよりやっぱり鉄血のほうが好きだよ。わたし」
ラ・ガリソ「結局どうするの?」
ヴォークラン「そこはリシュリュー様を説得して一回引き上げさせてからこっちが撃って出て挟み撃ちして華麗なる槍捌きでロイヤルを倒すってことで!」
ラ・ガリソ「それ楽しそう!よし決まり!リシュリューの説得頑張ってね!ヴォークラン先生♪」
ヴォークラン「いやいや今のは冗談だから真に受けないってば~!!」
アルジュリー「はいはい、ちょっと真面目にやるわよ~まずは海上戦力。敵は戦艦だけでなく空母も2隻と勢ぞろいだから、セイレーンや量産型のフネを計算に入れても、戦力差があまりにも絶望的だわ。例の秘密兵器の子・・・ダメね。戦闘に参加してくれても使いこなせる自信がないわ。聖堂の防御施設の強化は完了したけど、制空権がない状態ではこちらの援護に集中させることが出来ないわ。結局正面切って戦うのは無理ってことね。」
ヴォークラン「・・・やっぱり降参したほうがよくない?」
アルジュリー「それはできない。ヴィシアの護教騎士の掟もそうだし、ダンケルクやジャン・バールたちの今の状態では、鉄血に疑われるようなことになるとまずいわ。だから枢機卿・・・アイリスの子たちが私たちと戦いたくない、という思いを利用するしかないのよ。それと、ロイヤルの戦力を分断させるわ。そしたら勝つことは出来なくても、ある程度の実績を鉄血に示してヴィシアの立場を保てるの」
ラ・ガリソ「つまり・・・交渉する姿勢を見せて、まずロイヤルとアイリスの侵攻スピードを緩める。そして、敵の勢力を分断させたうえで一気にロイヤル艦隊を叩くってこと?」
アルジュリー「そうよ。それにロイヤルの戦力を撃破すれば、枢機卿たちともじっくり話せるわ」
ラ・ガリソ「じっくり話す・・・?」
アルジュリー「ええ、枢機卿の艦隊をヴィシアにひ引き込められないか説得してみるわ。仮にできなかったとしても要塞の防衛施設で引き上げさせられる。私たちはあくまで聖堂を守るためにここにいるーーそれをアイリスの子たちに分かってもらえるわ。願わくばあのオルレアンの戦いのように勝ってみたいわね。ふふふ」
ヴォークラン「なるほど!さすがアルジュリーさんよく考えているのね~あっ、そういえばジャンヌ・ダルクさんは今、向こうなんだ・・・」
ラ・ガリソ「ふふ、はははははは!」
アルジュリー「ふぅ・・・とりあえず作戦の概要は今言った通りよ。こんなに考えることになるなんて、本当にに疲れたわ・・・」
手を軽くたたいて、アルジュリーは笑顔でみんなを解散させた。
・・戦いにはまだ迷いがある、見習い騎士のヴォークラン。
戦闘になれば「楽しいから」と手が付けられなくなるラ・ガリソニエール
そして例の「秘密兵器」ー考えることがまだいっぱいありそうだ。
【自主権】
聖堂の島・外周海域
ジャンヌ「セイレーンの防衛線を突破しました!聖堂と私たちの間に阻むものはもはや存在しません。」
ベアルン「量産型のセイレーン程度、聖堂からの火力支援なしでは問題にならないでしょう」
ル・テメレール「あ!あのセイレーンの艦載機、対空砲に撃墜された!?」
ルビニャート「鉄血のセイレーンでも、聖堂に近づくと攻撃されてますね」
イラストリアス「このあたりは鉄血とヴィシアの間の緩衝地帯、ということでしょうか」
リシュリュー「「セイレーンは港に近づけさせない」ー トゥーロンでも、あの子はそうみんなに命じてましたね」
イラストリアス「(鉄血の味方をしていないのでしたら、交渉できるかもしれません)」
リシュリュー「(鉄血に本国を占領されては、ヴィシアの勢力丸ごとの反転は困難・・・ジャン・バールはまだ向こうにいる以上、アルジュリーたちも・・・ですが・・・)大いなる父よ、どうか私たちにご加護をー自由なるアイリスが、もう一度一つになるために!・・・あ、すみません、急に驚かせてしまいましたね。」
【交渉要請】
ジャンヌ「ここまで侵攻してきたというのに、だれも現れないのですね・・・量産型の艦すら一隻もありません。あのアルジュリーさんが指揮をとっているのでしたら、なぜ・・・」
ル・テメレール「ヴィシアの子たちも、やっぱり戦いたくないよね・・・」
ルビニャート「その可能性もありますね。もしかして聖堂で私たちを待っているのかも・・・」
通信機「ーーー」
ジャンヌ「ヴィシアからの平文通信です」
リシュリュー「平文・・通信?」
通信機「ヴィシア護教騎士団、騎士アルジュリーが侵入者に告ぐ。ここから先は我がヴィシアの領域、いかなる艦船の通過も禁ずる。直ちに進路を変更せよ。これ以上の接近はヴィシアへの敵対行為とみなす」
リシュリュー「・・・・私から返事します。」
リシュリュー「こちらアイリス教国枢機卿リシュリュー。護教騎士アルジュリーに告ぐ。我に敵意無し。直接対話を望む」
通信機「ヴィシア護教騎士団、騎士アルジュリーが侵入者に告ぐ。ここから先は我がヴィシアの領域、いかなる艦船の・・・・・」
ジャンヌ「自動音声のようですね」
リシュリュー「・・・・・・・・」
ベアルン「ヴィシアの量産型が出て来た上、防衛施設も動き始めました・・・どうやら向こうは会話する気が無いようですね」
ル・テメレール「そ、そんな・・・」
ルビニャート「ルーちゃん・・・・」
リシュリュー「・・・各艦、量産型を撃破して、警戒陣形で聖堂に接近せよ!」
【思惑】
聖堂の島・リシュリューー艦隊交戦開始より少し前
通信機「ヴィシア護教騎士団、騎士アルジュリーが侵入者に告ぐ。ここから先は我がヴィシアの領域、いかなる艦船の・・・・・」
アルジュリー「・・・・ちょっと困るわね・・・あんな感じで陣形が密集しては、分断させられないかも。ロイヤルも指揮権を渡すなんて、思いっきりやっているわね。さて、ここはどうすれば良いのかしら」
通信機「----」
アルジュリー「思った通り、リシュリューは戦いを望んでいないわ。だけど、時には物事がそう簡単にうまく運ばないの。ヴィシアもそれなりのけじめをつけないと。ヴォークランたちの配置は・・・みんな無事ね。あとは、私の番・・・・」
アルジュリー「(念のため、聖堂で発見した「□□」も・・・)」
アルジュリー「・・・・・・・・」
アルジュリー「量産型艦隊、前進、敵艦隊を迎撃せよー!」
【選ばれた道】
聖堂の島・外周海域
戦いはまだ続いている
ル・テメレール「量産型なのに、強い・・・!」
ルビニャート「それに聖堂の防衛施設から援護射撃・・・射程外にいったん退避して戦ったほうが良さそうですね」
イラストリアス「思った以上に強いですね・・・こっちの前進速度がだいぶ遅くなりましたわ。ヴィシア、どうしてここまで・・・」
リシュリュー「鉄血の協力があってかもしれませんが、聖堂の防衛施設が以前とは全く別物になっています。油断していたら、それこそ集中攻撃されてしまいますね・・・!」
イラストリアス「アルジュリーさんがこの作戦を考えたのでしょうか・・・」
リシュリュー「アルジュリーはアイリスでも屈指の戦士で、こういう戦術にも通じていると聞きました。味方としているときはこの上なく頼りになりますが、こうして相対する敵になるなんて・・・」
ベンソン「もう一つ、あの量産型の艦船はチューニングされてますね。普通の量産型なら、同じ艦型の性能は変わらないはず。一方ここにいる量産型は明らかに制式のものを上回っていると思われます。全部がチューニングされた艦ではありませんでしたが、少し混ぜるだけでも戦力を誤認させることができましょう。」
イラストリアス「でも見た目に変わりはないですから、不思議な話ですね」
ジャンヌ「なのにこの微妙な戦いづらさ・・・神の加護はこの量産型にも及ぶというのですか・・・!?いいえ、これはもしや操っているあジュリーさんの力・・・!?ミカエルさま、これは一体・・・!?」
リシュリュー「・・・・」
ルビニャート「もしくは、メンタルユニット・・・?」
ベンソン「いい着眼点ですね。いえ・・・メンタルユニットの艦船への作用効果はともかく、量産型の艦への影響については実証が・・・いや待て、まさか・・・これが「聖堂」の・・・」
イラストリアス「聖堂の・・・?」
イラストリアス「(メンタルユニット・・・確かメンタルキューブの技術を応用した強化アイテムですけど、その機能は私たちも知らないところが多くて・・・陛下もたびたびこの話をしていましたけど、アイリスは何か掴んでいるのかしら・・・気になりますけど、流石に問い詰めるわけにはいきませんね。ロイヤルとアイリスの共同研究なら・・・これはフッドさまに相談したほうが良さそうですね)」
ベアルン「(秘蹟の研究。たしかロイヤルも参加しているはず・・・詳しく調べる必要がありそうですね)」
リシュリュー「メンタルユニットの研究なら、前の大戦からアイリスも行っていましたけど、途中で中止されたと聞きました。」
ベアルン「(ここで考えていても仕方がない、と枢機卿様は仰りたいのですね」
ジャンヌ「話の途中で失礼ですが、その・・この海域、なんといいますか・・違和感を感じませんか?まるで何かの霧に包まれているような・・・」
イラストリアス「そう言えばそうですね・・・」
フォーチュン「わ、わたしも・・・」
ル・テメレール「私は特に何も感じませんよ?」
ルビニャート「私も・・変なマホウかも・・・?」
ベンソン「私めも違和感ありませんね。強いて言えば、艦載機を操るときはいつもより反応が微かに早いくらいです」
イラストリアス「アイリスの聖堂ですから、よそ者である私だけが感じ取れる、特別な何かでしょうか?」
リシュリュー「(聖堂に封印されていた「秘蹟」・・・と同じ感触ですね。もしかして、ヴィシアは既に手に入れているとでもいうのですか・・・!?」
イラストリアス「フォーチュンちゃんは大丈夫ですか?」
フォーチュン「わ、わたしもちょっと」
リシュリュー「(あの量産型艦たち、もしかして「秘蹟」によって強化されていたものだとしたら・・・一刻も早くアルジュリーたちと接触しないと)」
【真意?】
聖堂の島・外周海域
戦闘はまだ続いている
ル・テメレール「分かったよ!これ強いのではなくて、とにかく硬い!倒すのに時間かかっちゃう!」
ルビニャート「簡単に倒せる「マホウ」はないのね・・・アルジュリーさん、なんでこんな量産型なんかを・・・」
イラストリアス「聖堂に接近自体はしていますから、時間はかかりますけどたどり着けないことはありませんわ」
リシュリュー「ええ、ここは粘り強く最後まで進みましょう」
ベンソン「お言葉ですが、アルジュリーはこちらを疲弊させようとしている、という意図なのでは?」
リシュリュー「分かっています。交渉するにしても、こちらの手札は増やさないといけませんから。ですから、こうやって可能な限りあちらとの戦力差を縮める方法をとっています」
リシュリュー「(危害を加えるつもりなら、最初の通信で誘い込んで奇襲を仕掛けるのが上策ですから、死力を尽くしてまで戦う気はないはず)」
ジャンヌ「こうして敵の支援砲撃をよけながら量産型を撃破し続けるしかありませんね。幸い、敵の数はそんなにありませんので、こっちの戦力も削られることがありませんが。よhしえ、精神の疲労は蓄積してしまいますね・・・」
ル・テメレール「アルジュリーさん、早く出てこないかな・・・」
フォーチュン「ルーちゃん、大丈夫・・・きっと出会える運命だと・・・思います・・・!」
リシュリュー「今の状態を狙っているのでしたら、そろそろ出てくるころだと思います」
イラストリアス「そのようですわ -量産型を率いてこちらに向かってくるアルジュリーさまを艦載機が捉えました・・・あっ、アルジュリー様、艦隊から離脱して単身でこちらに向かってきますわ」
【枢機卿と騎士】
リシュリュー「ふっ・・・よかったです。みんな、攻撃態勢を解除して、話してきます」
アルジュリー「お久しぶりでございます。枢機卿様」
リシュリュー「ええ、本当に久しぶりです。アルジュリー。この前は確か」
アルジュリー「太陽、園芸、花、そして甘いお菓子。-そんな感じだったかしら」
リシュリュー「懐かしいお茶会ですね。ルビニャートとル・テメレールがマジックでちょっと失敗したとき、危うく仕掛けの火薬が爆発しそうになったけど・・・」
アルジュリー「ちょうど新しく焼いたお菓子を持ってきたダンケルクに助けられたわね」
アルジュリー「枢機卿はあのお菓子を覚えているかしら。甘くてふんわりとした舌触り。戦闘中の彼女からは想像できない程、柔らかくて優しい味」
リシュリュー「・・・・」
アルジュリー「そしてストラスプール、プロヴァンス。ブリタニア、ジャン・バール」
リシュリュー「みんなは無事、なのでしょうか・・・・」
アルジュリー「そええ、あなたも知っての通り彼女たちは沈んでいなかったわ。そして無事救助され、今は鉄血のもとで治療を受けている。ロイヤルと違って、鉄血は私たちを裏切ったりはしないからね」
リシュリュー「アイリスの本当の敵は本国を手中に収めた鉄血です。私たちが相争う必要はありません。私たちが生きているのは、神を敬い、仲間たちとアイリスを守るためであって、決して争うためではないはずです。お願いします。アルジュリー。アイリスに戻って、共に祖国の希望の為に力を尽くしましょう」
アルジュリー「一度裏切った偽善者のロイヤルと協力する、とでも言いたいのかしら?たしかに、アイリスとヴィシアが争う必要などないし、私たちは共に協力し合うべきよ。あなたはアイリスを裏切って、ロイヤルと組んでいた。でもみんなはきっとあなたの思いをわかってくれる。みんなを連れてヴィシアに来て。ダンケルクたちに申し訳ないと思っているなら、それにこたえて」
リシュリュー「言い訳はできません。ダンケルクたちの一件はたしかに私にも責任があります。」
アルジュリー「ううん、言いたいのはそれだけじゃないわ。アズールレーンはもうかの大戦ときのものじゃないわ。鉄血が全て正しいとは言わなくても、アズールレーンにはない合理性が力になるわよ・・・あなただけでもいいの。護教騎士の名に誓って、鉄血にはあなたに危害を与えさえないようにするわ。私たちもあなたの導きを必要としているのよ」
リシュリュー「本国を鉄血に支配され、鉄血の代理人に成り下がった聖座など、アイリスに身を捧げる者が従うべきではありません。鉄血の影響を取り除き、傀儡の聖座を浄罪し、アイリスを独立させてこそみんなの力を一つにできますわ。アイリスは、そうであるべきだと信じています。そのためなら、ロイヤルと協力するのも惜しみません。」
アルジュリー「・・・ふぅ、平行線のようね。ふふふ」
リシュリュー「・・ええ、ですが、諦めませんわ」
アルジュリー「こっちもそのつもりよ。お互い戦いたくはないけど、世の中はそううまくいかないわね。では枢機卿。どうかご武運を」
祝福を捧げ、ヴィシアの護教騎士が踵を返し、自陣に戻った。遠くなっていく背中を、紅き枢機卿はただ静かに見送った。
リシュリュー「いつか、またみんなでお茶会を・・・」
【初戦】
ラ・ガリソ「出鼻をくじかれた感じ?」
アルジュリー「ええそうよ。向こうに降参する気がないから」
ラ・ガリソ「‥今の冗談のつもり?まあいっか。リシュリューたちはどうだった?」
アルジュリー「変わってないわよ。凛として、自分を曲げず、ただ強大な存在感を放つカリスマ。他の子は遠くからしか見てないけど、みんな元気そうよ」
ラ・ガリソ「ロイヤルにいじめられてないって確認出来てよかったね・・・そこは私たちがリシュリューがいるから?それとも何かな?」
アルジュリー「そこは私たちが心配してもしょうがないでしょ?あ、ヴォークランは位置まで移動した?」
ラ・ガリソ「バッチリよ。だけど、なんか前の配置と違ってない?」
アルジュリー「ええ、この聖堂のおかげで勝つ算段が立ったわよ。もうちょっと調べる必要があるけど・・・」
ラ・ガリソ「さっき見せた量産型を強化するアレと・・・あの黒い「■■■■」のこと?いくらそれがあってもさすがに一人では無理だよ・・・本当に大丈夫なの?」
アルジュリー「大丈夫よ。リシュリューとも話したし、お互い死ぬ気で戦う気はないはずよ。ロイヤルも彼女が指揮をとっている限り変な動きはできないわ。よし、もうちょつとあの子たちを引き付けてくるから、待機位置まで移動をお願いね」
ラ・ガリソ「はいはーい、そっちも気を付けてね。アルジュリー」
【一時の勝利?】
聖堂の島・外周海域
ーーー!!!!
リシュリュー「主力艦、そのまま敵に砲撃を!小型艦は航空攻撃隊の攻撃目標の指示を!神のご加護のもとに、全艦、前進!」
リシュリュー「(ごめんなさいアルジュリー。いくら量産型を強化したとはいえ、正面切って戦ってこちらが負けるはずがありませんわ)」
リシュリュー「イラストリアスさん、ベアルン。先程言った通りアルジュリーの艤装機関部を攻撃し、無力化を狙ってください」
イラストリアス「はい。聖なる光の導きのままに。ふふふ」
ベアルン「善処します。イラストリアス様、護衛は私めにおまかせを」
イラストリアス「・・・!!この対空砲火は・・!」
ベアルン「どうやら建物に隠された対空砲によるものですね。一筋縄ではいかないようです。」
イラストリアス「なんて恐ろしい相手でしょう・・・」
リシュリュー「このまま戦線を押し切ります!勢いはこちらに!」
ル・テメレール「アルジュリーさん、逃げちゃうの?」
ルビニャート「本当だ、みんな散り散りに・・・」
ル・テメレール「よぉし、速力を生かして捕まえちゃおう!」
リシュリュー「アルジュリーがそう簡単に撤退するかしら・・・これは私たちを誘い込む罠ですね」
ル・テメレール「そうなの・・?こちらが優勢なのに・・・」
フォーチュン「イラストリアスさん、私たちはどうします?」
イラストリアス「すみません、ちょっと艦載機で確認してみます。撤退にしては整然としすぎていますわ。急いで戦場から離脱しようとするどころか・・・小艦隊に再編成しているような気がします。こちらの戦力分散を狙っている気もしなくはありませんが・・このまま追いますか?」
リシュリュー「数なら敵のほうが有利です。こちらも戦力を分散するとかえって防衛施設との連携で各個撃破される危険性がありますね」
イラストリアス「では一個ずつ敵艦隊を追撃しますか?聖堂までの距離はそう遠くありませんから、一部を聖堂に向かわせるのも・・・」
ジャンヌ「リシュリューさん、ご命令を」
リシュリュー「・・・全艦、進路を聖堂のほうに切り替えて。アルジュリーたちの行方を確認できない以上、作戦目標の聖堂を先に確保しましょう。前衛艦隊も後退し、追撃せず本隊と合流してください。これより聖堂を目標に移動を開始します」
リシュリュー「(目的が聖堂を守ることならこっちの動きを無視できないはずです。アルジュリー、続きはそこでしましょう)」